私の通う名古屋大学の学食にはパスタがない。まず大田舎出身の大学生による、ことのいきさつを聞いてほしい。
広島県のなかでも田舎の地域出身の私は大都会名古屋の大学へ通えることに胸の高鳴りを抑えられずにいた。町を走る電車は50分に一本、それに単線、そんなところで生まれ育った私の高揚は正しかった。ただひとつを除いて…
生まれてこの方、生活圏のご飯屋さんは、ラーメン・中華・うどん(チェーン)・和定食屋さんからご自由にお選び下さい状態だった私は、（いやいや全然ご自由ではないよそれはと、おいしそうな料理が紹介される関東の番組をみて薄々気づきだしたのは高校生のとき）これからの学生生活で大お世話になるだろう大学内の食堂のメニューに期待を寄せていた。「きっとパスタが食べられる！」
都会の大学の食堂であわよくばイタリアーノ気分を味わおうというこの純朴な少年の魂胆は、しかし、儚く崩れてしまった。
「食堂の麺コーナー行って写真のメニュー順番に眺めたら、ラーメン、うどん、そば。なるほどこれは定番だし、全部カタカナメニューってほど都会を走っているわけじゃないのね。いなかっぺにも優しくて安心安心。きしめんも愛知を感じられていいね。」
「っておいっ、パスタがないじゃないっ！」
「というか、名古屋にキャンパスを構える大学の学食のメニューが、田んぼでオタマジャクシ採ったり、近くの森でカブトムシ採ったりして遊べる地元のご飯屋さんのラインナップなんよっ！ちょいといなかっぺに優しすぎやしないかい」
いなかっぺの高鳴る胸に刺さった、ただ一つの針に過ぎなかったこのパスタ事件。お隣の南山大学の学食にはパスタの提供があることを知り、大きく進展を迎えるに思われた。―「大学」でパスタを食べたい、という入学前から大きくねじ曲がった魂胆を添えて―
思われた？
新型コロナウイルスの影響で学外者の入構制限、入構できても学内の生徒数が少ない為そもそもやっているお店とメニューが少ないのだ。以前お昼どきに伺ったときは当然パスタもやっていなかった。名大と同じくカブトムシ採り放題田舎に似たラインナップは生き残っていた。カレー、うどん、ラーメン、カツ。
いなかっぺが学食で楽してイタリアーノ気分を味わおうとする計画、今度はコロナが見え透いていたらしい。ただ、入構制限が解かれ、講義も対面実施になった頃にはパスタの提供も復活しているだろう。だからこの件はもういい。「大学」でパスタをいただくことはいつか叶う。でもなぜ、欧米からの留学生も少なくない都会の国立大学でパスタがいただけないのか。けしからん、学食はどこがやっているのか。あっ全国大学生協。
主に国公立大学が加盟する全国大学生協。加盟する私立大学もあるが、公立でない大学では学内の飲食事業を地域の企業が担っていることが多い。南山大学もそんな大学の一つである。つまり主に国公立の大学でパスタが提供されていないのは、全国で統一されたメニューを出す生協がやっているから。そんなの理由になってない！
いや、ゆで時間がほかの麺類に比べ長いではないか。提供スピードが命の学食ではパスタは不向きなのだよというご意見、確かに承っております。しかしそれは生パスタが解決してくれる。冷凍パスタは茹で知らずではないか。
それに全国大学生協の全国ご当地学食MAPによれば、なんと東北大学ではパスタが提供されている。しかも「クリーミーボロネーゼ(サラダ・スープ付)」（580円！）これぞ私の求めていたお安くイタリアーノ。全国大学生協が提供するメニューにも大学限定ではパスタが存在する。なぜほかの大学でもメニューに組み入れないのか。
大学でパスタが食べられなさ過ぎて、生協が売っているお弁当の揚げ物の下に敷いてある焼きそばなのかスパゲッティなのかわからないアレを、もうパスタだと思い込もうとし始めたのは最近のこと。東京など都市部への一極集中が進む中、地方に優秀な学生を残させるべく、都会の大学へ行けば学食でパスタをいただけるだろうという、私のような魂胆を持ったいなかっぺ学生の不純な進学動機のひとつを挫かせるための生協のこれまた魂胆なのではないかとも、冗談でもつい思ってしまう。
これ程まで私の病気は進行している。もう時間はない。
しかし、私の今の気持ちは案外落ち着いていることを伝えてパスタ事件、ひとまず締めくくろうと思う。一筋の光が差したのだ。
全国大学生協が提供するご当地以外の学食メニューを一覧で紹介するサイト「学食どっとコープ」で麺類を検索すると。
最後のメニューに、パスタ、あり。
名古屋大学でパスタが通常メニューとして登場するのはそう遠くないのかもしれない。
大久保雄大
名古屋大学理学部２年 ライターのインターン中
東山カルチャーコラムは、東山エリアについて、ゆかりのある方になにかしらの文章を書いていただいて掲載しているコーナーです。
